【解説】 アメリカの静かさ、イスラエルへの不満を反映か ヨルダン川西岸の入植地に対するイギリスの制裁で

ダークスーツ姿の両者が握手している。近くに両国の国旗が見える

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画像説明, アメリカのトランプ大統領(右)とイスラエルのネタニヤフ首相
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トム・ベイトマン米国務省担当特派員

イギリスが8日、イスラエルが占領するパレスチナ・ヨルダン川西岸のイスラエル入植地に対する制裁を発表すると、イスラエルは激怒した。そして、東エルサレムの英総領事館の閉鎖、ガザ近郊の国際基地からの英軍関係者の追放、左派の英下院議員10人ほどのイスラエル入国禁止を発表した。

明確な反発だった。両国の外交関係はとんでもなく悪化した。

イギリスは、2国家解決(将来の独立したパレスチナ国家)をイスラエル政府が「破壊」するのを、阻止する道義的義務があると主張し、今回の措置に踏み切った。さらに、イスラエル人入植者によるパレスチナ人の「民族浄化」を、イスラエル政府が黙認していると非難した。

8日午後には、フランス、カナダ、デンマーク、スペイン、フィンランド、アイルランド、アイスランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スウェーデンの11カ国も、入植地との貿易禁止に加わると表明した。こうしてイスラエルとの対立は拡大し、重要な疑問が浮き彫りになった。

イスラエルが国際社会で孤立すると、超大国アメリカは外交的な盾となって介入することが多い。アメリカは今回、イギリスの政策を非難するのかどうか。

一部の観測筋は、アメリカがイギリスを非難すると予想していた。イギリスの制裁発表に先立ち、マイク・ハッカビー駐イスラエル米大使がBBCに出演し、アメリカの「制裁、影響、または報復」がイギリスに及ぶかもれしれないと示唆すると、その可能性はさらに高まった。ただしハッカビー氏は、アメリカの対応の内容は把握しておらず、ドナルド・トランプ大統領とも話をしていないと述べていた。

しかし、イギリスの発表から時間が進むにつれて、米政府の静かさがむしろ際立った。

非難も制裁もなく

マルコ・ルビオ米国務長官は、南米コロンビアへ向かう途中で記者団からイギリスの措置について質問されると、「もちろん、私たちはイギリスがしたことはしない。今日の(イギリスの)発表は知っているが、現時点ではコメントはない」と答えた。

ルビオ長官はまた、イギリスが事前に米政権に通知していたと説明した(おそらく、7日にトランプ氏とアンディ・バーナム英首相が電話会談をした際のことだろう)。

ルビオ氏はさらに、中東情勢が緊迫している中で、アメリカは「安定という目標」を共有しており、「ヨルダン川西岸での(中略)暴力の急増など見たくない」と述べた。

国務長官のこの発言は、イギリスの動きに対する痛烈な非難とはいえず、ましてや何らかの罰でもなかった。それどころか、イギリスが今回の措置を取るに至った、イギリスの懸念を、アメリカ政府は一部共有しているようにさえ思えた。

トランプ氏はこの件について9日に質問されると、イスラエルの考えを理解するため、イスラエルと話をするつもりだと答えた。「何が起きているのかは正確に理解しているが、なぜ突然このようなことが起きたのか知りたい」と付け加えた。

私が知る限り、米政権内部では8日、対応策をめぐり、高官級の協議が開かれた。その結果、アメリカの基本姿勢は、同国の企業に悪影響を及ぼす恐れのある措置に対してはすべて反対する、というものになったようだ。

ハッカビー大使は、ヨルダン川西岸へのイスラエル人入植地について、聖書に基づいて正当だとの見解を長年維持している。同氏の公の発言には、その場で準備なしに話していると思えるものもある。トランプ氏が任命した大使の一部に、共通する特徴だ。

親イスラエル派として筋金入りの共和党連邦議員たちは、イギリスに対する措置を公然と主張した。議員たちは、フロリダなどの州には、イスラエルをボイコットする企業に罰則を科す法律があるとも指摘した。だが、ホワイトハウスや国務省からは、イギリスに対する批判は出なかった。

総選挙でのネタニヤフ氏支持を表明せず

今後数日のうちに米政権がイギリスの動きを非難する可能性は、まだある。しかし、即座に反発する様子がなかったのは、トランプ政権内でイスラエル指導部に対する不満が高まっていることを反映している可能性が高い。

トランプ氏が現在、外交政策で最も優先しているのは、膠着(こうちゃく)状態にあるイランとの戦争で、とりわけ焦点となっているホルムズ海峡での危機悪化を防ぐことだ。イスラエルと共同で実施したイラン攻撃は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とトランプ氏の複雑な関係に、多くの摩擦を生んでいる。

トランプ氏がイランとの合意を目指していた重要な局面で、ネタニヤフ氏はレバノンの武装勢力ヒズボラとの戦闘を激化させた。イスラエルは、安全保障上の脅威に対抗するためだったと説明したが、これにより、アメリカの外交努力を頓挫させる可能性があった。

トランプ氏は、パレスチナの武装勢力ハマスの武装解除とイスラエル軍の撤退などによる、ガザ和平構想の進展を望んでいる。ただネタニヤフ氏は、現在の形での構想を公然と拒んでいる。

米国務省は公式には、イギリスの制裁発表をめぐっては、ルビオ氏のマイアミでの発言がすべてだと私に言った。ただ、総じて言えば、トランプ氏は現時点では、ネタニヤフ氏を擁護するつもりはなさそうだ。

この姿勢は、近く予定されているイスラエル総選挙で、トランプ氏がネタニヤフ氏を公に支持していないことにも表れている。イスラエル問題でトランプ支持層に分裂が生じていることを認識している米政権側も、イスラエル政府が入植者による暴力を効果的に処罰していないことに、いら立ちを募らせている。これはホワイトハウスにとって恥ずべき事態となっている。

ヨルダン川西岸におけるパレスチナ人に対する暴力については、トランプ政権と同盟関係にある湾岸アラブ諸国が頻繁に抗議している。湾岸諸国はガザをめぐり仲介役を務めており、トランプ氏は、ハマスに圧力をかけるため、この国々の協力が必要だとしている。ただ、そうした湾岸諸国はアメリカについて、ヨルダン川西岸地区の入植者による暴力についてさえ、イスラエルから譲歩を引き出せないのに、ガザをめぐる譲歩をいったいどうしたら引き出せるのかと、疑問視している。

トランプ氏は、イランを打ち負かし、ガザ和平計画を推進することで、後世に名を残したいと考えている。そのため、ヨルダン川西岸の入植地をめぐりイスラエルを支持し、ヨーロッパと対立することは、少なくとも今のところ、トランプ氏にとって割に合わないことのようだ。