【解説】 イランにとっての三つの選択肢 ホルムズ海峡めぐり多大なリスク冒すなか

黒い服で体を覆った人が、ハメネイ師と、その両側にイラン国旗が描かれた壁画の前を通り過ぎている

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画像説明, 故アリ・ハメネイ師の壁画。イラン最高指導者の地位は、息子のモジタバ師が継いだ(7月15日、テヘラン)
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アミル・アジミ(BBCペルシャ語)

イランの指導陣は、極めて重要なホルムズ海峡の支配権をめぐり、アメリカと2週間近く、攻撃の応酬を続けている。そしていま、彼らの前には三つの選択肢があるのかもしれない。ただ、どれも勝利への明確な道筋を示すものではない。

最初の選択肢は、アメリカの要求の大半を受け入れるというものだ。それはつまり、イランが、商船への攻撃を停止し、ホルムズ海峡の自由かつ安全な航行を保証することだ。さらに、高濃縮ウランの備蓄を放棄または希釈し、国際的な核監視機関による立ち入り検査を受け入れることにもなる。

イランは見返りとして、同国の港を対象とした海上封鎖の解除、制裁の緩和、攻撃継続の停止をアメリカに求めるだろう。

これはおそらく、コストが最も小さい選択肢だ。しかし、政治的コストは最も大きい。

ホルムズ海峡の管理においてイランがどういう役割を正式に担うのか、明確にしないまま同海峡を再開すれば、イランが新たに見つけた抑止力だと政権内の一部で考えられているものを、放棄することになる。ホルムズ海峡の封鎖というのは今やイランにとって、ミサイルよりも、地域の代理勢力よりも、さらには核開発計画よりも、効果的な抑止力だと言えるかもしれないのだ。

イランは今回初めて、敵から攻撃されれば、自分たちは直ちに世界経済に損害を与えられるのだと明示した。

一方で、核開発計画についてイランはもう長いこと、それは自分たちの権利であって強制的に放棄させられるなどあり得ないと主張し続けてきた。

数カ月にわたる攻撃の末に、核関連活動について厳しい制限を受け入れたりすれば、アメリカの軍事的圧力が奏功したと強硬派は主張できるようになる。また、イランのミサイル計画や、レバノンの武装組織ヒズボラ、イラクのシーア派組織、イエメンの反政府勢力フーシ派との関係をめぐって、これまで以上の要求をイランが突きつけられることにもなり得る。

二つ目の選択肢は、エスカレーションだ。エネルギー価格の高騰と混乱の拡大がアメリカとその同盟国に妥協を強いることを期待して、イランが地域の米軍基地や船舶、湾岸アラブ諸国の重要インフラへの攻撃を激化させる可能性がある。

これは、軍事的なリスクが最も大きい。イランの攻撃で多くの死傷者が出たり、湾岸地域のインフラに深刻な被害を受けたりすれば、イランの近隣諸国はこれまで以上に直接、紛争に関わりかねない。そうすればイランは、顔ぶれの増えた連合勢力と戦う羽目になる。

第3の選択肢は、現在の不安定な状態を維持することだ。交渉力を保つため、海運とエネルギー市場に対して適度な圧力をかけるが、アメリカとの全面戦争に逆戻りするほどの圧力はかけない。

これは、イランで確立している考え方に合致していると思われる。イランは、自分たちより強い敵を打ち負かす必要はなく、敵の戦闘意欲が続くよりも長く生き延びられれば、それでいい。生き延びること自体を、勝利としてアピールできる。とはいえ、制裁、戦争の被害、インフレは、着実に国民の不満を高めている。

そして時がたつにつれ、一つの逆説が浮かび上がるかもしれない。イランがホルムズ海峡を武器として利用すればするほど、他国がエネルギーや他の物資をこの地域から運び出す新たな方法を見つけられれば、その時にイランの影響力は大いに弱まる――というものだ。

国会議長のモハマド・バゲル・ガリバフ氏は、この矛盾を認め、ホルムズ海峡の価値は、航行量の減少ではなく増加にあるとしている。ホルムズ海峡は航路として常に危険だとなれば、各国はイランを迂回(うかい)する方法を探すようになる。

誰が決定権を握っているのか

状況をさらに複雑にしているのが、イランの意思決定プロセスをめぐる不透明性だ。

前最高指導者のアリ・ハメネイ師は、アメリカとイスラエルが2月末にイラン攻撃を始めた当初に殺害された。故ハメネイ師が指導者だったころは、選挙で選ばれた政治家、宗教指導者組織、イスラム革命防衛隊の間に対立が起きれば、それを決着させるのはハメネイ師だった。しかし、戦争が数カ月続き、後任の最高指導者がハメネイ師の息子モジタバ師に代わった今、権力バランスは以前ほど明確ではない。

マスード・ペゼシュキアン大統領と外交関係者らは、経済にかかる圧力を軽くし、安定を取り戻す方向での解決策を好むだろう。一方、議会の強硬派や、選挙を経てはいないが影響力のある機関、保守系メディアなどは、大幅な譲歩がイランのイデオロギー基盤を損ない、政権の核となる支持者らを遠ざけてしまうと懸念するだろう。

最も読めないのが軍、特に革命防衛隊だ。革命防衛隊の影響力の中核にあるのが、イランのミサイル計画、地域の同盟、ホルムズ海峡の戦略だ。しかし、事態のエスカレートや交渉をめぐる決定において、司令官らがどれほどの影響力をもっているのかは、不明なままだ。

イランが直面する三つの選択肢は、国内体制のどの部分にも同じだけのコストを負わせるわけではない。現実主義者は合意を支持し、強硬派は長期戦を望むだろう。軍司令官の一部は、事態のエスカレートがイランの交渉力を高めると考えるかもしれない。

したがって、問題はイランがどの道を選ぶかだけではない。それを決める権限を誰が持っているのかも重要だ。

イランの人々が何と言っているのか

イランにおいて「忍耐」と一言で言っても、指導層が考える「忍耐」と、実際に人々が強いられる「忍耐」とは大きく異なる。

イランとアメリカは6月、了解覚書(MOU)に署名した。軍事作戦の停止と、ホルムズ海峡の再開、60日以内の戦争終結の合意を目指す内容だった。しかし、署名から3週間後、ドナルド・トランプ米大統領は停戦の「終了」を宣言した。ホルムズ海峡でイランが船舶を攻撃し、アメリカは報復攻撃に出た。

イランの女性の一人は、戦闘が再開した時「すごく、すごく悲しかった」とBBCペルシャ語に話した。

彼女は了解覚書によって、残る争いの解決と、社会の安定回復のための時間が生まれることを期待していた。しかし実際には、インフラの破壊と、民間人および軍人の死の増加を恐れる日々を送っている。

悪いのは、破壊的な政策を押し付けているイラン体制内部の強硬派だと彼女は言った。同時に、戦争をあおったと彼女が考えている、国外の反体制派も彼女は非難した。

テヘランで暮らす別の女性は、勤めていた貿易会社が閉鎖し、4カ月間失業状態だと話した。博士号をもち、17年の実務経験があるにもかかわらずだ。

「今後どうなるか誰もわからないので、誰も人を雇わない」と彼女は言った。身の回りで物価が高騰し、停電や断水が生じ、窃盗が増え、ときおり夜間に発砲事件が起きているという。今は市内を移動するにも、なるべく回数を控えているという。

こうした国内の証言が、何か一つの政治的結論を指し示すわけではない。外国からの攻撃は、現在のイスラム共和国体制を支持しない人たちにも、アメリカとイスラエルに対する怒りを植え付ける可能性がある。しかし、抵抗の名の下に、国民に無期限の苦難に耐えることを求めることの限界も示している。

トランプ氏も難しい選択を迫られている。戦争を拡大するか、軍事的・経済的圧力を継続するか、それともイランに厳格な監視下での限定的な民生用の原子力計画を認める合意を受け入れるか。どれも勝利への道筋を明確に示すものではない。

この対立は、攻撃、仲介、一時的停戦の繰り返しによって、まだ何カ月も続く可能性がある。決定的に重要なのは、全面戦争や新たな混乱、ホルムズ海峡の重要性を低下させる代替ルートの整備を招くことなく、イランの指導者たちがどれだけ長く、同海峡を交渉材料として保持し続けられるかだ。