【解説】 アメリカのカストロ元議長起訴、キューバで何が起こり得るのか

白いTシャツに麦わら帽子を被った男性が、片手にプラカードを持っている。プラカードには赤い文字で「今すぐ介入を、対話はいらない」と書かれている。背後ではアメリカとキューバの国旗が空にはためいている

画像提供, Getty Images

画像説明, 「今すぐ介入を、対話はいらない」と書かれたプラカードを掲げる男性
Published
この記事は約 8 分で読めます

バーンド・デブスマン・ジュニア・ホワイトハウス担当記者

アメリカは20日、南部フロリダ州とキューバの間を飛行していた航空機2機が撃墜された1996年の事件をめぐり、当時キューバの最高指導者だったラウル・カストロ元国家評議会議長(94)を、アメリカ人殺害共謀などの罪で起訴した。これを受け、アメリカが次に体制転換を目指すのはキューバではないかとの臆測が出ている。

アメリカはこのところ、キューバに対する圧力を強めており、ここ数十年で最も深刻な燃料およびエネルギー不足を引き起こしている。米政府高官らからは、66年にわたる共産主義政権の終わりを求める声が、ひっきりなしに出ている。

ドナルド・トランプ米大統領は「エスカレーション」は不要と考えていると述べている一方、ホワイトハウスはアメリカ沿岸から144キロメートルの距離にある「ならず者国家」を容認しないと誓っている。

次に何が起きるのかは誰にも分からない。経済崩壊、国内の混乱、アメリカの軍事介入も考えられる。以下、考えられる三つの展開をみていく。

1. アメリカがカストロ氏を拘束する

1996年の事件では、キューバ系アメリカ人の団体「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー」の航空機が撃墜され、アメリカ人3人を含む4人が殺害された。この事件に関してカストロ氏が起訴されたことで、アメリカ軍が同氏を拘束し、アメリカの法廷へ移送する作戦を実行する可能性があるとの臆測が飛び交った。

こうした作戦には前例がある。

アメリカは今年1月、司法省がヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領(当時)を起訴したことを受け、マドゥロ氏を拘束してアメリカに連行する軍事作戦を実施。マドゥロ氏は現在、ニューヨークで裁判を前にしている。

1989年には、さらに大規模な「ジャスト・コーズ作戦」において、数千人のアメリカ兵がパナマに侵攻し、当時の指導者マヌエル・ノリエガ氏を拘束。政権を転覆させた。

トランプ大統領はこれまでのところ、キューバで同様の作戦を検討しているかとの問いにまともに答えていない。

しかし、複数の米連邦議会議員が、同様の任務を実施すべきだと公然と呼びかけている。

リック・スコット上院議員(フロリダ州)は記者団に対し、「我々はどの選択肢も排除すべきではない」と述べ、「マドゥロに起きたことと同じことがラウル・カストロに起きるべきだ」と語った。

専門家らは、軍事的観点から見ればカストロ氏の拘束は実行可能だとしつつも、高齢であることや抵抗の可能性を含め、その作戦はリスクや複雑性を伴うものになると指摘している。

米首都ワシントンに拠点を置くNGO「ラテンアメリカ・ワシントン事務所」のアダム・アイザクソン氏は、「ある意味では彼(カストロ氏)を連れ出すほうが容易かもしれない」と指摘。「彼はその象徴的価値ゆえに厳重に警護されているが、それでも十分に可能だ」と語った。

しかし、2018年に議長を退任したあとは、影響力を持つ象徴的存在と見なされてきたにすぎないカストロ氏を排除しても、キューバ政府全体に大きな影響を与えない可能性がある。

アイザクソン氏は、「キューバの権力構造にはもはや大きな影響を与えないと思う。彼は94歳だ」、「カストロ一族の王朝は影響力を持つが、国家の中核ではない」と語った。

一方で、「しかし、アメリカの内政には効果があるかもしれない」と付け加え、「アメリカはカストロ一族に屈辱を与え、1959年の革命家の1人を収監することを望むだろう。だが、その戦略的価値には疑問がある」と語った。

2. アメリカがキューバの政権交代を模索する

トランプ氏を含むアメリカ政府幹部が示唆してきた一つの可能性は、キューバで新たな指導部が権力を引き継ぐというものだ。

専門家らが指摘しているように、この手法は、ヴェネズエラでの事例に類似する可能性がある。同国では大統領がマドゥロ氏からデルシー・ロドリゲス氏に置き換えられ、政府自体はほぼ維持されたまま、トランプ政権と直接やりとりするようになった。

白いスーツを着て黒いめがねをかけた女性が前を向いている

画像提供, Getty Images

画像説明, ヴェネズエラではマドゥロ氏拘束の後、デルシー・ロドリゲス氏が政権を主導している

トランプ氏は、深刻化する経済問題の中でアメリカの支援を望んでいるキューバ国内の人物と既に接触していると繰り返し述べている。

今月12日には自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に「キューバは支援を求めており、我々は協議する」と投稿した。

その数日後、米中央情報局(CIA)のジョン・ラトクリフ長官はキューバ当局者と会談。その中にはカストロ氏の孫であるラウル・ギジェルモ・ロドリゲス・カストロ氏や、ラサロ・アルバレス・カサス内相が含まれていた。

マルコ・ルビオ米国務長官は21日、フロリダ州で記者団に対し、「我々はキューバと関わることになるが(中略)最終的には彼らが決断を下す必要がある。彼らの体制は機能していない」と述べ、トランプ政権としては「交渉による合意」を望んでいると付け加えた。

アメリカが求める変化には、経済の開放やさらなる外国投資の受け入れ、キューバ亡命者グループの関与拡大に加え、ロシアおよび中国の情報機関の島内での活動を終わらせるという約束が含まれる可能性がある。

重要なのは、これらの変化がキューバ政府の大枠を維持したまま実現し得る点だ。

ワシントンに拠点を置くシンクタンク「インターアメリカン・ダイアログ」の元代表で、現在はジョージタウン大学で中南米研究を教えるマイケル・シフター氏は、アメリカは「ヴェネズエラで不安定化を回避しようとしたのと同様に、キューバでも不安定化を避けたいと考えている」と述べた。

同氏はさらに、「体制転換を強制するのはリスクが高すぎる」と語った。

BBCが取材した複数の専門家は、トランプ政権にとっての課題は、キューバ国内において直ちに後継者となり得る人物が明確に存在しない点にあると述べた。

シフター氏は、「キューバにはデルシー・ロドリゲスのような明確な人物はいないと思うし、キューバの権力構造はヴェネズエラとは異なる形で機能している」と述べ、「アメリカが求めているものを見つけるのは難しいが、何らかの統治構造を模索しているのは確かだ」と語った。

3. キューバが崩壊する

三つ目の可能性は、キューバが現在直面している大規模な経済的圧力に耐えきれず、崩壊するというものだ。この圧力はすでに、島内で毎日数時間に及ぶ停電や深刻な食料不足を引き起こしている。

トランプ氏は今週、「エスカレーションは起きない。必要だとは思わない」と述べ、「あそこは崩れつつある。ひどい状況で、かなりコントロールを失っている」と語った。

しかし専門家らは、状況ははるかに複雑だとみており、厳しい経済状況の中でも、キューバ政府が国民に対して持つ統制の仕組みはおおむね維持されているとしている。

前出のシフター氏は、「キューバ経済とキューバの国家および政府は区別して考える必要がある」と指摘。「キューバ経済は崩壊する可能性があり、実際に崩壊しつつあるが、国家は依然として機能している。特に安全保障分野においてはそうだ」と語った。

国家の崩壊が起きれば、多数のキューバ人が国外へ逃れる可能性がある。とりわけアメリカに向かう場合、トランプ政権にとって課題となり得る。

近年アメリカに到着したキューバ人の多くは、トランプ政権下で政治亡命にアクセスできなかったり、さまざまな移民政策の影響を受けたりしている。

「ラテンアメリカ・ワシントン事務所」のアイザクソン氏は、「崩壊が起きれば、キューバ人口の大部分が、これまでハイチから人々が行ってきたのと同様に、あらゆる手段を尽くして脱出しようとするだろう」と述べた。

「フロリダが最も近い場所だが、メキシコへ向かう人々も現れると予想する」

アイザクソン氏はさらに、こうした大規模な流出がすでに始まっていないことに「驚いている」と述べた。

「人々はおそらく1日あたり1000から1500カロリーで生き延びており、基本的な医療にもアクセスできていない」

「キューバの人々がすでに船を作り始めているはずだと思うかもしれないが、そうではない」