【解説】 スペインの移民危機が政治的嵐に SNSにあおられ

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サラ・レインズフォード南欧・東欧特派員
アフリカ北端にあるスペインの飛び地領土セウタへ7月30日に泳いで入った数万人の移民のほとんどはその後、スペイン軍兵士や警察官に護衛され、国境まで戻り、モロッコへ戻った。
しかし、一気に押し寄せる人数が異例なほど膨れ上がるなか、少なくとも72人が死亡した。その遺体は、放置された浮き輪やフィンに混ざって海に浮かび、そして引き揚げられた。
今週の出来事はヨーロッパの政治をも揺るがした。移民というデリケートな問題をめぐる分裂が、改めてあらわになった。
そして、なぜこれほどの人数がいきなり押し寄せたのか、その原因については、いまだに多くの疑問が残る。ヨーロッパに簡単に入れるぞと約束するソーシャルメディアの投稿が、拡散しただけのことなのか。それとももっと意図的で、組織的なものだったのか。

政治
原因が何であれ、スペインの社会労働党を率いるペドロ・サンチェス首相は、諸外国の対応に憤慨している。
サンチェス首相は、欧州連合(EU)の一部の国がこの危機のさなかにスペインを「攻撃」したと批判。同盟国を支援するのではなく、危機を政治的駆け引きに利用したと責めた。
特に批判している相手が、イタリアだ。
ジョルジャ・メローニ首相率いる極右政党「イタリアの同胞」は、セウタの街路を駆け抜ける移民たちの画像をいち早くソーシャルメディアに投稿した。
「これぞ、イタリアの左派がこよなく愛するサンチェス・モデルだ」と、キャプションを添えて。
メローニ首相はその後、安全保障上の脅威を理由に、スペイン相手にシェンゲン協定を一時停止した。シェンゲン協定は、EU加盟国を中心とする29カ国の間で、原則的に出入国審査なしの各国間の自由な行き来を認める取り決め。
スペイン政府は激怒している。
スペインからすると、すでに危機は封じ込めたし、そもそもセウタはシェンゲン圏に含まれていない。そのため、モロッコからスペイン領セウタに入ったからと言って、その移民が何の制約もなくヨーロッパ本土に向かうことは決してなかった。
メローニ氏はそのことを承知している。
しかし、彼女は来年に総選挙を控えている。彼女の連立政権は、新たに台頭した強硬な反移民政党に支持を奪われつつある。そのため、今回の事態はメローニ氏にとって、自ら移民対策に強硬な姿勢を示し、票を取り戻す絶好の機会だったし、彼女はそのチャンスに飛びついた。

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スペインは移民に甘い?
しかし、スペインは移民問題に甘いと見ているのは、イタリアだけではない。
メローニ氏がEUの緊急内相会議を4日に開くよう求めると約20カ国のEU加盟国首脳がこれに同意し、移民をヨーロッパへ引き付ける「誘引要因」になり得るあらゆる政策の撤廃を求めた。
何よりもEU各国は、スペインが数十万人の非正規移民に居住許可証や就労許可証の申請を認め、彼らの身分を「正規化」しようとする措置を問題視している。
スペイン側の動機はきわめて現実的だ。スペイン社会は高齢化が進んでいるので、労働力が必要なのだ。
しかし、スペインのこの措置は期間限定のもので、すでに締め切られている。今週セウタのビーチに押し寄せた人々は、それを理由にスペインへ向かったわけではない。
サンチェス首相自身は、スペイン最高裁判所の最近の判決を理由として挙げている。その判決は、海路で入国した人々を直ちに追い返すことはできないと判断するものだった。
首相は、密航手配業者がこの判決について、ヨーロッパに簡単に入れる方法だと偽って広めたのだと主張する。

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しかし、セウタに向かう人々は密航業者に代金を支払う必要はなかった。彼らのほとんどはモロッコ人で、セウタに入るルートはよく知られていたからだ。
セウタに行こうというメッセージはむしろ、インターネット上で拡散された。
複数の移民は報道陣に、「スペインは開いている」と叫びながら海に飛び込む人たちを映したソーシャルメディアの投稿を見せた。
私たちが独自に確認した複数のアカウントには、ウェットスーツとフィンを着けた若者たち、あるいは既に泳いでいる若者たちを撮影した動画が、セウタ市内の写真と混ざって投稿されている。
アカウント開設から数週間しかたっていないものもある。数万件もの「いいね!」を獲得しているものもいくつかある。
その約束はすべてうそだった。
喜び勇んでセウタの岸辺にたどり着いた大勢は、何も得られなかった。食料も宿もなく、ヨーロッパ大陸へ向かう手段もないため、ほとんどの人がすぐに引き返した。

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では一体何が原因だったのか
例えば数年前のベラルーシのように、移民が「武器化」された可能性はあるのだろうか?
だとすれば、誰がやったのか?
今のところ私たちが目にしているのは、今回の騒ぎを喜ぶ人たちばかりだ。
ジャーナリストのアンドレア・リッツィ氏がスペイン紙エル・パイスに書いたように、世界の右翼勢力は「喜びのあまり過呼吸状態」にある。
イランとの戦争に反対するスペインに憤慨し、かねてサンチェス首相を非難していたドナルド・トランプ米大統領は、今回のことを「大惨事」、「侵略」だと力説した。メローニ氏と同様、トランプ氏も国内で選挙を控えている。
ロシアもまた、この状況を喜んでいる。ロシアはヨーロッパの混乱と分裂を好んでおり、ウクライナの同盟国を弱体化させるためなら何でもするのだ。
モロッコ側は「犯罪組織」の仕業だと非難しているが、国境警備隊は群衆が集まっているのを目にしていたはずだ。
同じようなことが前に起きた時は、今回に比べるとその規模は小さかったが、スペインとモロッコは旧植民地の西サハラを巡って対立していた。
現在はそれ以外にも緊張が生まれている。
サンチェス首相は今回の出来事について徹底して、モロッコを非難していない。むしろ、モロッコを「良い同盟国」と呼んでいる。
しかし、サンチェス氏を批判する勢力は、それは彼の融和策だと非難し、「もっと毅然とした態度を示すべきだ」と主張している。

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結果として
スペインは今のところ、セウタでの今回のような事態が続発しないよう、防止策に尽力している。
国境フェンスを洋上まで伸ばし、桟橋にオレンジ色のブイを長く連ねて設置した。その周辺を警備隊が巡回し、今後の海からの上陸を阻止する予定だ。
EU各国の内相たちは近く、外部国境の強化について協議する予定で、ポピュリスト右派の閣僚たちは前のめりになっている。
スペインからイタリアへ渡航する旅行者は今後数週間、警察の抜き打ち書類検査を受けることになる。
つまり、大きな変化はないということだ。
ただし、インターネットで見た夢を追い求めて海に出た数十人の若者たちは例外だ。彼らは今、棺おけに入れられてモロッコに送り返されている。











