ラミー英副首相、ヴァンス米副大統領に「間違いだ」と伝えたと 英学生刺殺事件めぐる発言について

ダークスーツ姿のラミー氏がソファーに座り、正面にいる長髪の女性と向き合って両手を前に出している
画像説明, BBCの番組に出演したラミー英副首相(左)
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英サウサンプトンの学生ヘンリー・ノヴァク氏(18)が刃物で刺殺された事件をめぐり、移民政策に問題があるなどとするアメリカのJ・D・ヴァンス副大統領のコメントを、イギリスのデイヴィッド・ラミー副首相が問題視している。ヴァンス副大統領と親しい間柄のラミー氏は7日、「間違っている」と伝えるためにヴァンス氏に電話をかけたとBBCの番組で明らかにした。他方、アメリカのピート・ヘグセス国防長官も6日の演説で、ヨーロッパの移民政策を批判した。

ヴァンス副大統領は5日、Xへの投稿でノヴァク氏について、「文明が滅びるのと同じ方法で」死んだとし、「信頼も気遣いもしてくれない当局によって、見捨てられ、手錠をかけられた」と書いた。

また、この殺人事件は「悲劇的であると同時に憤りをかき立てる」ものだとし、「もしここ数世代の欧州エリートらが自己嫌悪の政治や移民の大規模流入に対して立ち向かっていれば」、ノヴァク氏は今も生きていただろうと記した。そして、「唯一の対応」は「正当な怒り」だとした。

ラミー副首相は7日、BBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」に出演。ヴァンス氏に6日に電話をかけ、事件に関する同氏の発言について話し合ったと明らかにした。副首相は、ヴァンス氏に対してその発言は「間違っている」と伝え、「(今回の事件は)大規模な移民流入とは何の関係もない」と説明したのだと話した。

ノヴァク氏殺人事件は、昨年12月に発生した。ヴィクラム・ディグワ受刑者への量刑言い渡しが今月1日にあり、最低21年の禁錮刑を条件とした終身刑を言い渡された。それに伴い、現場に急行した警官のボディーカメラの映像が家族の了承を得て公開された。映像には、自分は人種差別的な攻撃の被害者だと虚偽の主張をするディグワ受刑者や、瀕死(ひんし)の状態で横たわり、刺されたと訴えているにもかかわらず警官に手錠をかけられるノヴァク氏の姿が映っていた。

ディグワ受刑者は、イギリス生まれのイギリス人。犯行には、シーク教の信仰上の理由で所持していたと受刑者が主張する刃物が使われた。

この殺人事件はイギリスで、警察の行動やナイフ関連の法律をめぐる激しい議論を巻き起こした。サウサンプトンでは暴力的な抗議デモも発生した。

動画説明, 【検証】 「刺された」と訴える被害者に手錠……英警察のボディーカメラ映像から分かること

ラミー氏はBBC番組で、ヴァンス氏との会話は「和やかな」ものだったと述べた。また、西洋文明とその「衰退」に関するヴァンス氏の「誇張した描写」には同意しないとした。

副首相はさらに、ノヴァク氏の家族が「落ち着いた対応」を求めていることを、あらためてヴァンス氏の念押ししたとBBCに話した。

ノヴァクさんの父親マーク・ノヴァク氏は今月1日、ディグワ受刑者の量刑言い渡しの終わった法廷の外で、「私たちは、彼の死が、さらなる分断や憎悪、緊張を生むことに利用されてほしくない。彼の物語が、すべての人にとってより安全な街づくりににつながることを望んでいる」と述べていた。

副首相はヴァンス氏について、「私たちは依然として同僚で友人同士なので、活発に話し合うことができる」、「彼は強い信念を持っている」とも述べた。

ラミー氏とヴァンス氏はここ数年間で、意外とも思える友情を築いている。2人はラミー氏が野党の下院議員で、ヴァンス氏が上院議員に当選したばかりの時から、交流を続けている。昨年8月には副首相が政府から提供されているロンドン南東ケントの別邸に、副大統領一家が一緒に滞在した。

一方で、アメリカのドナルド・トランプ政権によるイランへの軍事攻撃をめぐり、イギリスが参加を見送ったことなどから、両国関係はこのところぐらついている。

ヴァンス副大統領のコメントについては、英首相官邸も、「私たちの民主主義に干渉し、分断をあおろうとする人々」がいると批判している。

警察の文書を見直しへ

今回の事件後、イギリスの全国警察本部長評議会(NPCC)が策定した反人種差別の取り組みを概説した文書が、見直しの対象となっている。

この文書には、人種的平等とは「すべての人を『同じように』扱うことや、『人種に目をつぶる』ことではない」と書かれている。NPCCは2日、文書内の文言を見直す考えを明らかにした。

ラミー氏は、この文書について問われると、「私たちはみな法の下では平等だ」と述べたうえで、「逮捕、起訴、有罪判決の段階において、刑務所や刑事司法制度において、少数民族が不釣り合いに(多く)みられるのがいまだ実情だ」とした。

そして、過去の警察活動では「制度的な人種差別」が「本当に存在した」としつつ、「その時代からは、私たちは脱却した」と主張。「私が警察の活動を見る限り、そうした経験はない」と述べた。

米国務長官も欧州の移民政策を批判

ヴァンス米副大統領がイギリスの移民政策を批判するなか、アメリカのヘグセス国防長官も6日、第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を記念する演説で、ヨーロッパの移民政策を批判した。1944年に連合軍がナチス占領下のヨーロッパを解放するためフランスの海岸に上陸してから82年後のノルマンディーで、「危険なイデオロギー」が大陸の海岸を襲っていると述べ、それを「侵略」と比較した。

ヘグセス氏は仏北部ノルマンディー地方コルビルシュルメールにある米軍戦没者墓地で演説し、「残念ながら現在、こことは別のヨーロッパの海岸が、異なる危険なイデオロギーに襲撃されている」と主張。「スペイン、イタリア、ギリシャ、ブルガリアの海岸だ。ボートや人がやってきている。欧州各国の政府はいつになったら、この侵略を何とかするのか」と述べた。

さらに、ノルマンディー上陸作戦以降の欧州各国の政府は、苦闘の末に獲得した自由にあまりにも「安住しすぎて」おり、「自由はただではない」ということを忘れていると批判した。

ノルマンディー上陸作戦は史上最大規模の海上軍事作戦で、イギリス、アメリカ、カナダを中心に兵数万人がフランス北部ノルマンディーの5つの別々の海岸に同時に上陸した。

他方、近年のヨーロッパに海からたどり着く人数は2015年にピークに達し、国連によると100万人以上が地中海を渡った。シリア内戦やアフガニスタン紛争から逃れる難民の増加で、人数が急増した時期もあった。

2025年4月~2026年3月の間に、海路でイギリス、ギリシャ、イタリア、スペイン、キプロスに到着した人数は計で16万9341人。イギリスへの到着が、その約23%を占めた。

2026年1月1日~6月3日までの間に、合計9142人がフランスから小型ボートで英仏海峡を渡りイギリスに到達した。この人数は前年同期比で38%減少している。