ウクライナで徴兵担当者への暴力事件が増加 兵員不足と徴兵忌避の溝

迷彩柄の軍服にヘルメットをかぶった男性を、暗闇の中でフラッシュ撮影した写真。男性はひげを伸ばしており、軍服には複数のナイフが装着されている。また、男性の背後にはれんが造りの建物が見える。
画像説明, 現役兵のワシル・クルピッチ氏は、徴兵を逃れた人物を捜索中に襲撃された
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サラ・レインズフォード東欧特派員

ウクライナのために戦うとはどういうことか、ワシル・クルピチ氏は身をもって知っている。

戦場で機関銃を扱っていたクルピチ氏は、ウクライナ東部ドンバス地方で、ロシア軍による殺戮(さつりく)を何とか生き延びた。当時の悲惨な状況を、彼は時に祈りながら、そして泣きながら語った。

しかし前線を離れ、徴兵忌避者を捜索していた昨年12月、クルピチ氏は同じウクライナ人に襲撃された。

2人の男性は、身分証の提示要請を無視して逃亡した。パトロール隊が2人を追跡するなかで、クルピチ氏はバールで激しく殴打された。6週間も入院する羽目になった。

「あばら骨を折られてその場に倒れた。息ができなかった」と、クルピチ氏は最近の取材で話した。

「兵士が殴られるこの状況で、私たちはいったい何のために戦ったのか?」

暴力の増加

ウクライナ軍に対する国民の苦情受付担当は、こうした襲撃事件は今や「常態化」し「大きな問題」になっていると話す。ロシアによるウクライナ全面侵攻は5年目に突入し、ウクライナは自国の男性の動員に苦労している。

ウクライナの人たちは、ロシアのプロパガンダに拍車をかけることを恐れ、この件についてあまり話したがらない。しかし、国家警察サービスの最新報告によると、徴兵担当者に対する襲撃事件がこれまでに600件以上の発生している。当局は、こうした攻撃が「ますます脅威」になっていると警告している。

今年4月に複数の徴兵担当者らが刺されたことで、一気に懸念が高まった。この事件では1人が死亡した。7月には西部リヴィウで、徴兵忌避の容疑者を拘束しようとした担当者らを約200人の抗議者が囲み、車を破壊し横転させた。

この暴力事件はニュースとなり、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は軍人への暴力を非難した。

ゼレンスキー大統領が先に発表した、ミハイロ・フェドロフ国防相の更迭が、国内で議論を呼んでいる。国防相解任の背景には、フェドロフ氏とウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官との緊張関係があるという。こうした状況で、徴兵危機への対処に向けた取り組みも行き詰まりが予想される。

しかし、リヴィウで爆発した怒りは、その対応がいかに急務かを示している。

バスに詰め込まれてそのまま徴兵

徴兵逃れの要因はさまざまだ。ウクライナでは今や誰もが、戦場で負傷したり殺されたりした人を知っているため、単純な前線への恐怖もその一つだ。また、終わる見通しのない戦争に参加したくないというのも理由になっている。

開戦直後以降で唯一、国民の従軍意欲が増したのは2023年後半、ウクライナが南東部のロシア占領地域を奪還するために反転攻勢を仕掛けた時だった。

しかし、その熱意は続かなかった。

そして、この時期から「残酷な動員」が始まったと、野党のオレクサンドル・ホンチャレンコ議員は話す。この「残酷な動員」が、国民の反発を招いた原因だと、同議員は言う。

「徴兵担当者らは街中で人々を追い回している。時には非常に暴力的な方法を使っている」

「暴力は暴力を生む。実に大きな問題で、今後もさらに悪化するだろう」

グレーのポロシャツを着た男性が、雪が薄っすら積もった歩道に立っている写真
画像説明, 軍事アナリストのイワン・ストゥパク氏

軍事アナリストのイワン・ストゥパク氏も同意する。

「当時、ウクライナは戦場での人員不足と継続的な敗退に悩まされ始めた」、「司令部のトップは、この負けを埋めるために『バシフィケーション』を始めた」と、ストゥパク氏は振り返る。

バシフィケーションとは、移動パトロール隊がバスに男性を次々と詰め込み、そのまま従軍させる手法を指すウクライナでの造語だ。

「5000人の増員が必要となると、パトロール隊が人を捕まえ始める。拒否すれば、そのまま街中で乱闘が始まる」

大学教授の経験談

つまり、徴兵担当者が襲撃されたという話の背景には必ず、人が徴兵担当者らから受けた暴力の証言がある。

ウクライナの人権コミッショナーは昨年、徴兵にまつわるこうした申し立てを6000件以上記録した。これは2024年の2倍に当たり、虐待や不法な拘束、徴兵センターの劣悪な環境といった申し立てが含まれている。

キリロ・オグダンスキー氏は、昨年11月のドニプロでの出来事を話すと、今でも動揺してしまうという。

白いTシャツの上に黄色と青のチェックのシャツを着た男性の肩から上の写真。背景は加工でぼかされている
画像説明, 大学教授のオグダンスキー氏は徴兵を免除されているが、それでも徴兵担当者の標的になった

大学教授のオグダンスキー氏は、兵役を免除されている。しかしある時、街中で平服の男性に話しかけられ、招集状況を確認したいと言われた。

こうしたパトロールには警察官の立ち合いを必要とするなど、さまざまな決まり事がある。そのため、オグダンスキー氏はこれを拒否した。

そして、彼は襲撃された。

「1人が私の手から電話を叩き落として、別の2人に背後からバスに押し込まれた。何が起きているのかと尋ねると、1人が私の頭を殴り始めた。何度も鼻を殴られた」と、オグダンスキー氏は話した。

同氏は、すぐに前線に送られるという脅しを覚えているという。

「男から、『司令官に電話してポクロウシク行きにしてやる』と言われた」

ウクライナ東部のポクロウシクは当時、ロシアとの間で最も激しい戦闘が行われていた

両目の下に大きなあざができている男性の顔写真

画像提供, Handout

画像説明, 徴兵担当者らに襲撃された直後のオグダンスキー氏

前線へ送られる代わりに、オグダンスキー氏は2週間の入院を余儀なくされた。首を負傷したほか、両目の下には大きな紫色のあざができていた。

同氏は正式に苦情を申し立てたものの、この件を公の場で話すことには抵抗があった。こうした話題は、戦争中のウクライナに悪い印象を与えると分かっていたからだ。

「ロシアのプロパガンダは、こういう話を積極的に取り上げる。しかし、こうした問題が実際に起きていることも確かだ」と、オグダンスキー氏は今回、取材に応じた理由を説明した。

「誰もが口をつぐんでいたら、どうやって止められるのか? 人員の問題は理解しているが、どの軍人にも、こんなまねをする権利などない」

「誰だって死ぬのは怖い」

クルピチ氏が戦場で恐ろしい経験したことは明らかだ。開戦直後に志願し、いくつかの激戦を生き延びた。

自分の従軍経験を誇りに思っているとクルピチ氏は話す。首元には「ウクライナ軍に栄光あれ」というタトゥーが刻まれている。しかし同時に、悪夢にさいなまれている。

乗っていた車両がロシア軍のFPV(一人称視点)ドローンに攻撃された際、クルピチ氏は重傷を負いながらも、友人の1人を安全な場所まで引きずっていくことができた。しかし、別の2人が炎の中で死ぬのを見た。

そして今、徴兵担当者に対する襲撃が増えているという話をするなかで、クルピチ氏の言葉には苦痛がにじんでいる。

これは彼が受けた襲撃だけの話ではない。この事件は現在も裁判が進行中だ。これは、クルピチ氏が耐え抜いた経験と、その経験を何としてでも避けようとする人々の間の、大きな溝だ。

「私たちは義務を果たし、任務を遂行している。私たちは戦って、人々を守った。そして今、その人々が私たちに襲い掛かっている」

ではクルピチ氏自身は、強制力なしに人々を従軍させるにはどうすればいいと考えているのか。そう尋ねると、彼は給与を上げることだと述べた。

しかし、すぐに肩をすくめた。

「他の方法なんてない。兵士たちは交代する必要があるが、だれも志願しない」

「誰だって死ぬのは怖い」

政府の対応

国防相を更迭されたフェドロフ氏は、その6カ月の任期の間に、拡大するこの危機に対処するため、改革に着手していた。

同氏は、軍務をより魅力的にする取り組みから始めていた。新規の志願者は有期契約とし、契約更新を延期するオプションもつけた。また、危険な役職を中心に給与水準の引き上げも行った。

しかし、この改革は初期段階にあり、フェドロフ氏は、軍務の全面改革に取り組んでいる最中に更迭された。

彼の提案には、徴兵パトロールを、この業務に個人的な思い入れの少ない警察に移管する案も含まれていた。また、徴兵担当者に対する正規訓練や心理スクリーニングの導入も協議されていた。

ウクライナは今回、兵員確保のシステムに問題があることを公に認めた。これは新しい展開だ。

しかし、今のウクライナには国防相代理しかいない。そして、いまだに解決策は見つかっていない。