バーナム氏、イギリスの新首相に就任 政治の安定と分権化推進を強調 原稿見ずに演説

首相官邸の玄関前で演説するダークスーツ姿のバーナム氏

画像提供, EPA

画像説明, 首相官邸前で首相就任演説をするバーナム新首相(20日、ロンドン・ダウニング街)
Published
この記事は約 8 分で読めます

イギリス与党・労働党のアンディ・バーナム党首が現地時間20日正午(日本時間20日午後8時)過ぎ、新たなイギリス首相になった。バッキンガム宮殿を訪れ、国王チャールズ3世に組閣を要請されたバーナム氏は官邸前で、イギリスで首相交代が相次いだことに触れたうえで「イギリスを安定させる」、「政治を機能させる」、「(家を失った人が)屋外で眠るしかない状態を終わらせる」などと述べ、生活費を引き下げ、政治権力をロンドンから切り離して全国に浸透させると演説した。親しみやすい首相と政権を打ち出すバーナム氏は、慣例を破り演台を使わず、原稿を見ずに簡潔に話した。

同日午前11時過ぎに前任のキア・スターマー前首相が官邸前で首相として最後の演説をした後、バッキンガム宮殿で国王に辞意を伝えた。それと入れ替わりにバーナム氏が宮殿に入り、国王に面会。慣例に則り国王は与党党首に組閣を要請し、ここでバーナム氏が第59代のイギリス首相になった。

現地時間午後12時45分ごろ、新しい首相としてロンドンのダウニング街に到着したバーナム氏と妻のマリー=フランス・ヴァン・ヒール氏は、官邸前に集まったスタッフや支援者たち、そしてその家族たちにゆっくりとあいさつした。

続いてバーナム新首相は官邸前で演台を使わず、原稿を読まずに、首相就任の演説を行い、「ただいまバッキンガム宮殿から戻ってきました。宮殿では、チャールズ国王陛下の組閣の要請を受け入れたばかりです」と報告した。

「そうした人間は過去10年間で私が6人目だと、そのことをひしひしと意識しています」と新首相は述べ、近年のイギリスで首相の交代が相次いだことを念頭に、「イギリスは世界に、安定を取り戻せると示す必要があります」と述べた。

国民が政治に辟易としてあきれ返っていることを承知しているとも首相は述べ、イギリスを再び機能させ、政治をより良くする必要があるとも話した。

「皆さんの言いたいことは聞こえています。私たちの働きは不十分で、もっとしっかりやる必要があります。そうします」と新首相は述べ、今のこの瞬間を「イギリスにとってのサーキットブレーカーにして、新しい政治モデルを実現します」と約束した。サーキットブレーカーとは金融市場用語で、価格が急激に動いたときに、一時的に取引を停止し、安定を図るための措置。

新首相は、1980年代のさまざまな民営化や脱工業化政策によってイギリス国内の多くの地域が甚大な被害を受け、いまだに回復していないと指摘。政治を政党や政治家が得点するためのものではなく、大勢が協力して問題を解決するためのものにしていくと約束した。

バーナム首相はかねての公約の通り、政治の分権化を進め、「ここ」つまりイギリス政界の中心地ロンドン・ウェストミンスターから権力を分散させ、「もっとたくさんのことが実現できるよう、国内のすべての郵便番号」に持ち込むと強調した。

また「生活に欠かせない」ものを再び公有化し、公共料金を払える水準まで引き下げ、イギリスの産業を支援すると述べた。

さらに、イギリスにこうあって欲しいと願う形へ向けて道筋を示すため、年内にはイギリスのための10カ年計画を発表すると約束。公営住宅を増やし、財政を健全化させ、家のない人が屋外で寝ざるを得ない状態を終わらせると明言した。

新首相は、生活費の支払いについて国民が「もっと余裕を持てるよう」明日から計画を示し始めるとも述べた。

バーナム首相はさらに、「この政府の中心に、正しい価値観と正しい基準を据える」として、「国民を大切にする。これこそ、私がやること全ての中心となる」と強調。「国民が一つにまとまっているという新しい感覚」を築き上げるため「自分のすべてをささげる」と約束した。

新首相は、今こそ「イギリスが再び信じるようになる瞬間。私たちが希望を復活させる瞬間」だとして、国民と支持者の支援を呼び掛けた。

明るい日差しの中、灰色のレンガ造りの首相官邸前で、2本のマイクの前で両手を広げて演説するダークスーツ姿のバーナム氏。官邸の玄関の左右に家族やスタッフが並んでいる

画像提供, Reuters

画像説明, バーナム新首相は慣例と異なり、演台を使わず、原稿を見ずに就任演説を行った

BBCのクリス・メイソン政治編集長は、首相が演台を使わず、つまり原稿を見ずに演説するというのは、バーナム新首相がグレーター・マンチェスターの市長として習慣にしていたコミュニケーションのスタイルで、同じような親しみやすさを首相としても具体的に示したものだと説明した。

金の装飾が施された額縁や暖炉などを背に、明るい灰色のスーツを着たチャールズ国王と、ダークスーツを着たバーナム氏が並び、カメラに向かって笑顔を浮かべている

画像提供, PA Media

画像説明, スターマー氏がバッキンガム宮殿を離れた後、入れ替わりでバーナム氏は宮殿に入り、チャールズ国王と面会した(20日、ロンドン)

バーナム氏は、長年の労働党支持者だった両親のもとで生まれ育った。新首相は就任に先立ち英紙タイムズに対し、アルツハイマー病を患う父ロイ氏が、自分の息子が労働党の8人目の首相になるのだと知らないままなのだと話していた。

母アイリーン氏はこの日、首相となった息子をダウニング街で迎え、抱きしめていた。

白髪のアイリーン氏が目を閉じて、息子のバーナム新首相を抱きしめている

画像提供, PA Media

画像説明, 首相となった息子を抱きしめるアイリーン・バーナム氏

路上で寝る人をなくすという公約

バーナム氏は同日早朝、首相就任に先立ち、ロンドン中心部にあるホームレス・シェルターを訪れ、食事の用意を手伝い、スタッフと懇談していた。ここでもバーナム氏は記者団に対し、人々が屋外で寝ざるを得ない状態をなくすには、全員が「協力する必要がある」と強調していた。

厨房で白いエプロンをつけてナイフを手にマッシュルームを刻むバーナム氏と、左右でそれを笑顔で見ているチャリティーのスタッフ

画像提供, PA Media

画像説明, 首相就任前、ロンドンのホームレス支援チャリティーを訪れたバーナム氏(20日、ロンドン・ヴィクトリア)

バーナム氏が下院議員から転身して2017年にグレーター・マンチェスター市長に就任した際、最初に取り組んだ課題のひとつが、路上生活者問題だった。市長としての給与の一部を路上生活者支援のために寄付し、当初は2020年までにマンチェスターから路上生活をなくすと述べていたが、それは実現していない。

イングランドの地方自治体は毎年秋、この日と決めた夜の路上生活者数を数えて「スナップショット」として記録しているが、これは家を失った人全員を把握する統計ではない(例えば、ホステルで生活している人は含まれない)。

住宅・コミュニティ・地方自治省の統計によると、グレーター・マンチェスター当局は2017年の時点で、地域全体の路上生活者数を268人と推計していた。その3年後、新型コロナウイルスのパンデミック中には、その推計値は半分以上減少して125人となった。バーナム氏は市長として目標を達成できなかったものの、2021年には路上生活者数はさらに90人まで減少した。

しかし、2025年の最新データでは、その数は197人に増加している。

また、近年は全国的にも路上生活者数が増加している。2025年秋には、イングランドでとある夜に路上で寝泊まりしていると推計された人の数は4793人となり、過去最多を記録した。

動画説明, スターマー氏が辞任、バーナム氏が就任 約100秒で振り返るイギリスの首相交代

相次ぐ首相交代

2022年に即位したチャールズ国王にとって、組閣を要請した首相はバーナム氏で4人目となる。

スターマー氏の辞任によって、存命のイギリス首相経験者は史上最多の9人となった。最年長は83歳のジョン・メイジャー氏、最年少は46歳のリシ・スーナク氏。その他、トニー・ブレア、ゴードン・ブラウン、デイヴィッド・キャメロン、テリーザ・メイ、ボリス・ジョンソン、リズ・トラス各氏がいる。

スターマー前首相に対する辞任圧力は、しばらく前から高まっていた。支持率が低迷し、ピーター・マンデルソン前駐米大使の任命をめぐってスターマー氏の評価を落とす情報が明るみに出たことも影響した。

5月に行われた地方議会選挙は、スターマー氏にとって状況を好転させる最後のチャンスとされていたが、結果は労働党の惨敗だった。直後から、一部の閣僚や政務次官らが政権を離れる動きが相次いだ。

さらに、6月中旬に行われたイングランド北西部メイカーフィールド選挙区での補欠選挙で、バーナム氏が下院議員に復帰したことで、党内ではバーナム氏を次の首相に推すムードがいっそう高まった。

スターマー氏は当初、党首の座への挑戦を受けて立つ姿勢を示していた。しかし、自分に対する労働党議員の支持が足りないとの結論に至り、6月22日に辞任を表明した

その後の党首選では、グレーター・マンチェスター前市長のバーナム氏以外に候補者が現れず、同氏は中央政界復帰から1カ月余りであっという間に権力を掌握するに至った。