日本の女性市長が産休取得へ、全国で注目

森来実(もり・くるみ)東京特派員
西日本の小さな市のトップが5月下旬、今夏から産休を取得すると明らかにした。この発表に眉をひそめる人はそれなりにいるだろうと、女性市長は当時考えていた。
しかし、世間からの実際の反応は、京都府八幡市の川田翔子市長が予想していたよりもはるかに激しいもので、賛否両論が巻き起こった。
出生率の低迷に苦しむ日本で、選挙で選ばれた公職者ははたして出産のために休暇を取得すべきか――。現在35歳の川田市長は、そうした全国的な議論の渦中にいる。
「(世間の)反応があまりに大きく、驚きました」と、川田氏はBBCに語った。
八幡市は京都府南部に位置し、神社や桜などの観光名所で知られる。その市役所5階の会議室で、川田氏は取材に応じた。角張ったクッション性のある肘掛け椅子に座り、両脇には副市長ら年上の男性2人が同席した。
現在、地方自治体の公選者が出産に伴って休暇を取得するための法的枠組みは存在しない。そのため、川田氏は正式な産休を取るわけではない。川田氏は自分が不在の間、左隣に座る能勢重人副市長にその職務を代行させるという。
川田氏は5月26日の定例記者会見で、9月中旬の出産予定日の2カ月前から、産後2カ月まで産休に入ると明らかにした。日本で現職の首長が産休を取得するのは初めてで、歴史的な出来事となる。
平均年齢が39歳と比較的若い職場の同僚は皆、協力的だと川田氏は話す。
しかし、世間の反応は違った。川田氏の産休をめぐるさまざまな意見が、ソーシャルメディアの数千件の投稿や、いくつかのユーチューブ動画で出ている。
出産は大変で、川田氏はベストを尽くしているという声や、日本社会は妊娠を考慮した制度を整備できていないと指摘する人もいる。
川田氏が家族を優先し、ほかの女性の政治参画をしやすくする素晴らしい前例を作っているという意見もみられた。
一方で批判的な意見もある。公務を離れるのは「無責任」で、妊娠を望むのなら「(市長)就任前にそうすべきだった」と主張する人や、長期休暇を希望する首長らは「辞職すべきだ」という人もいる。産休中は給与を減額すべきだとの主張もみられる。
川田氏はこうした批判を受け流しつつ、自身は仕事そのものを楽しんでいるし、今が子どもを持って家庭を築く時だとも考えていると堂々と語った。
「それ(公職者の産休)を批判 してしまうと、本当に20代から40代くらいの、いわゆる妊娠の可能性のある女性を全ての公職、選挙であったり、任期のある仕事全てから可能性として排除してしまう議論になりかねない」
広島県安芸高田市の前市長、石丸伸二氏は、真の論点は、産休中に職務を遂行する方法を考えることだとしている。
石丸氏は自身のユーチューブチャンネルで、産休の取得そのものが良いことだとは誰もが分かっているとしたうえで、「柔軟性を高めて効率的に業務を遂行できる体制を整える」ことを、これを機会に建設的に議論すべきではないかと述べている。

画像提供, Cheng Feng Chiang
低いままの日本のジェンダー平等順位
川田氏は33歳のとき日本史上最年少の女性市長に就任した。京都大学経済学部を卒業後、地方行政と政治の道に進んだ。公式プロフィールによると、趣味は茶道、着物を着ること、神社仏閣巡りだという。
川田氏は、男性中心の日本政界で実績を積み上げてきた。昨年時点で、日本の自治体のトップ1720人のうち、女性の割合はわずか4%ほどだ。
日本では昨年10月、初の女性首相が誕生した。それでも、女性の政治参画を後押しする取り組みが不十分だと、政府はたびたび批判されている。
男性が支配的な内閣や、戦後日本の歴史の大半で政権を担ってきた与党・自由民主党こそが、こうした問題の一因であるとの指摘もある。
2025年7月に公表された内閣府の調査では、女性の政界進出を妨げる要因として、妊娠や、政治は男性の仕事だという固定観念、ハラスメントなどが挙げられた。
日本は世界4位の経済大国であるものの、世界経済フォーラムによる「ジェンダーギャップ指数」では常に低い順位にとどまっている。2025年6月発表の最新報告書では、日本は146カ国中118位だった。主要7カ国(G7)の中では、ジェンダー平等の点で最下位だ。

「時代が変わり」男女が協力と副市長
日本の法律では、産休・育児休暇の取得や、その期間の給与の一部を補償することが定められている。しかし、誰もが産休・育休を取得しているわけではない。
また、両親ともに、子どもが1歳になるまで育児休業を取得する権利がある。この期間中、対象となる労働者には最初の180日間に給与の67%が、その後は50%が支給される。2025年4月以降は、両親がともに14日以上の育児休業を取得した場合、出生時育児休業給付金または育児休業給付金 と併せて 「出生後休業支援給付金」が最大28日間支給されることになった。
八幡市の能勢副市長は、女性が市長を務めながら「出産する場合の対応が、どういうふうな形で進むのかということは注目されていると思います」と述べた。
現在62歳で2人の子どもの父親である能勢氏は、川田氏が不在の間、市長の全権限を代行する。重要事項については週に1度、川田氏とオンラインで協議するという。
能勢氏自身は一度も育児休業を取得したことがなく、育児のほぼすべてを妻に任せていたという。「(家に)帰っても、正直言って疲れていたので、夜中に(子どもが)泣いても(妻に)任せていた。今から考えたら本当に反省しなければならない」と、子育て時期を振り返った。
現在は、娘の夫が第2子の育児のために、仕事を6カ月休んでいるという。能勢氏は、「やはり大分、時代も変わってきて、協力してやってるんだなという形では正直、うれしいなとは思っています」と話した。
女性が「どちらも実現できる」社会を
川田氏は、自身への批判の一部は、公職などの特定の立場にある人は私生活を捨てて、住民らのためにすべてをささげるべきだという根強い考え方に起因していると考えている。
BBCは川田氏に、同氏の子どもが将来、このように注目されたことをどう受け止めると思うか尋ねた。川田氏は、「願わくばやっぱり、昔は産休を取るだけでこんなにニュースになったんだって驚いていてほしいです」と答えた。
「それくらい当たり前に、どちらも女性が実現できるというか。仕事か家庭かということを選ばなくていい社会が、やっぱり私は実現している必要があると思います」












